中央区が2021年6月10日に秋葉原と新国際展示場を結ぶ地下鉄新線に関する報告書を更新した。2030年開業を想定したもので、新銀座以南の費用便益費B/Cが1・3となるなど、以前発表されたものよりも事業採算性が向上している。ただ、築地市場跡地などに1日30万人が来訪する想定や、新型コロナの長期的な影響評価を盛り込んだシナリオが検討されていないとみられることなど疑問も残る内容(2021/06/13)。
調査目的
2016年4月の交通政策審議会答申第198号で、事業性に課題があり、検討熟度が低いなどと指摘されたため、2019年度調査で整理した開発動向を踏まえて需要予測、収支採算性、費用便益分析を実施。今後の課題を整理する。
調査の流れ
2019年度 開発動向の整理
2020年度 モデル更新/需要予測/収支採算性/費用便益分析/課題整理
モデル更新のポイント
移動目的の細分化/性年齢階層区分
需要予測の前提条件
需要予測年次 2030年
需要予測
ケース1 新銀座〜新国際展示場
ケース2 秋葉原〜新東京〜新国際展示場
所要時間と運行本数
新銀座〜新国際展示場 7・5分 15本/時
秋葉原〜新国際展示場12・3分 15本/時
運賃設定
新東京〜新国際展示場 りんかい線並み
需要予測結果
築地市場跡地や晴海フラッグ商業エリアに約30万人/日(365倍すると1億1000万人)の来訪者を想定
※メトロ大手町(1日約36万人、2019年)よりちょっと少ないぐらい。六本木ヒルズや東京ドームシティは年間4000万人(1日11万人)で、その3倍の規模になる。
※現在未定の築地市場跡地再開発がかなりの利用者がある内容にならないと成り立たない。晴海フラッグ商業エリアって中規模スーパーの事?
輸送需要
収支採算性
前提条件
開業時期 2029年度末
建設期間 2024年〜2029年(5年間)
事業費 ケース1 2690億円/ケース2 3310億円
補助スキーム 地下高速鉄道整備事業費補助
整備・営業主体 第三セクター
試算結果
・事業成立可能な目安である累積資金収支黒字化は30年以内なので、事業採算性あり
・2019年度調査より改善した理由は需要の増加による
費用便益分析
前提条件
社会的割引率 4%
基準年次 2020年度
計算期間 30年
・ケース1で1.3、ケース2で1・9
・1を超えているので社会的に意義があるといえる
今後の課題
・築地跡地開発は検討段階。今後の計画の進捗次第で調査想定が変更になる可能性がある。
・来訪者数の増減は需要や収支に影響するため開発動向を注視する必要がある
・建築物価高騰、工法変更で当初想定より事業費が増加する可能性がある。今後の検討の深度化で事業費の増加が課題になった場合は事業費縮減を検討する必要がある
・地下鉄新線が国際展示場でりんかい線と接続、羽田まで直通運転の可能性。広い視野での検討が必要。
・2018年パーソントリップ調査結果を反映できていないため、次回調査では反映したモデルを構築。近年の需要、交通特性を踏まえた需要予測の実施が必要。
・国土交通省の「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」の動向を注視。
・その他特殊要因(後述)
感想・まとめ
概要版が大雑把すぎて評価をするのは難しいが、この試算は根本的に無理があると思う。交通政策審議会で示された新銀座〜新国際展示場のB/C=0・7が1・3になりますというには、築地再開発の中身が固まっていなさすぎるのが最大の課題か。
議論のたたき台としての試算という言い方はできると思うけど。
さらなる深化が必要だろう。
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問題点。
・開業時期の2030年はあまりに楽観的だろう。中央区側が明言している通り、東京8号線より早く事業着手することはないことが確定している。
中央区が「東京8号線延伸優先」を容認 最近の中央区の立場は「東京8号線優先」を容認した形になっている。
・東京都は江東区に「東京8号線の問題に基本的にはめどをつける」と話をして市場の移転を実施したが、都と江東区の約束が履行されていない。
・この状況で中央区が江東区にいっても「東京8号線が先」となることがはっきりしている。そういう状況をさらに混乱させるつもりはない。
・ただ国や東京都、交通機関運営会社との連携などやれることはある。
#592 臨海地域地下鉄構想の最近の状況 実現は厳しさ増す? - dorattara! Season4
TX一体整備の場合、2035年以降は沿線人口の減少に直面する。
・おそらくB/C>1を成り立たせている最大の要因である「築地市場跡地等に1日30万人来訪」という需要予測も根拠不明。
・JRをはじめ鉄道各社が相次いで新型コロナ前の水準には需要は回復しないと表明している状況なのに、新型コロナの影響を「その他特殊要因」にわずかに触れているだけ。過小評価どころか「動向を注視」なので評価すらしていない。
などなど。
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でも個人的に一番目を引いたのは事業採算性ではない。
新東京駅が常盤橋の東京トーチ直下になっていること。
いずれにしても晴海ライナー大勝利の予感。
今回の調査概要で1番のびっくりは「新東京駅」が常盤橋付近に移動していること。
— どらったら! (@Chuoinfom) 2021年6月13日
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過去エントリで常盤橋案は予測していたけどなー。
まさかね。https://t.co/3CpZGnSSpc pic.twitter.com/kSPl9kpDYQ