全路線ではなく、全路線全区間で営業損失を計上したJR四国の2020年度に線区別収支の発表は衝撃的だった。
新型コロナと中長期的な人口減少がJR5社(JR東海除く)に与える影響と、鉄道事業の持続可能性について、野村総研(NRI)が2022年3月に興味深いレポートを公表している。現状のままの鉄道事業維持は困難で、鉄道事業を支える仕組みづくりが必要という内容(2022/05/14)
背景
これまでのスキーム
新幹線、特急や大都市圏の高収益路線の黒字で地方ローカル線の赤字を支える構造
今後
新型コロナによる新しい生活様式の定着で収益回復が見込めず、従来のスキームの維持が難しくなる
→地方や中山間地の公共交通を地域全体で支える仕組みが必要になっている
JR5社の鉄道事業の持続可能性
2019年の運賃水準と路線網を維持した場合、JR5社の収益性は今後も低下。現状のままの鉄道事業継続は困難となる。地方赤字路線の見直しは不可避。
鉄道会社名 2019年を100とした場合の、2030年度/2040年度の利益水準(推計、NRI)
JR北海道 87/78
JR東日本 93/83
JR西日本 93/81
JR四国 84/70
JR九州 97/86
・鉄道事業は利用者数に連動しない固定費の比率が高い。
費用抑制で鉄道維持を目指す場合
2040年までに2800キロの路線長に相当する費用抑制が必要
内訳 必要な費用抑制額に相当する路線長(現在の路線長)
JR北海道 490キロ (現在2588キロ)=19%(490/2588)
JR東日本 1000キロ(現在7727キロ)=13%
JR西日本 780キロ (現在4902キロ)=16%
JR四国 250キロ (現在 855キロ)=29%
JR九州 300キロ (現在2281キロ)=13%
増収による鉄道維持を目指す場合
2019年度の客単価を1とした場合の2040年度に求められる客単価の倍率
①輸送密度4000人/日以上の路線
②輸送密度4000人/日未満の路線
JR北海道 ①1・2倍 ②1・4倍
JR東日本 ①1・2倍 ②1・6倍
JR西日本 ①1・2倍 ②1・3倍
JR四国 ①1・4倍 ②1・5倍
JR九州 ①1・2倍 ②1・3倍
キャッシュレス決済手数料を利用した「地域交通維持基金」の提案
レポートでは図に示した方法による基金の提案がなされていた。1%の決済手数料を取得することを想定した場合、全国で毎年160億円以上が期待されるとしている。これを既存の公共交通の運営補助に充当するというアイデア。
参考 JR四国の線区別収支と営業係数・2020年度
感想・まとめ
JR5社は相当苦しい将来が見込まれているようだ。JR5社が費用抑制で鉄度維持を試みる場合、いずれも営業路線の1割以上の路線長に相当する費用抑制が必要になってくる。JR四国に至っては営業路線855キロの3割の路線長にあたる費用抑制が必要となっている。企業存続が危ぶまれるレベルではないか。
全国的に公共交通維持は、もう別のステージに進んでいるのだなあというのを実感できるレポートだった。