イギリスの科学雑誌「ネイチャー」の専門雑誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」の2023年10月24日号に、西南極にある巨大な氷床の融解が21世紀中は避けられないという論文が掲載された。この氷床は全て融けると地球全体の海水面を5・3m以上上昇させる体積がある。本エントリの後半に海面が5m上昇した想定図を掲載した。地球温暖化対策はワーストシナリオを防ぐ役割しかない可能性があるそうだ(2023/10/25)。
論文の概要
・南極のアムンゼン海の海洋熱の将来変化、海洋を原因とする棚氷の融解の将来変化を評価した。アムンゼン海では気候変動による海洋温暖化が過去の3倍の速さで起こる可能性がある。
・今後数十年に亘り、気候変動緩和策がアムンゼン海の温暖化を遅らせる効果は限定的になる可能性がある。21世紀の急速な海洋温暖化と海面上昇のベースラインは確定しているようだ
・西南極氷床は地球の平均海面を5・3m上昇させるのに十分な氷が含まれる
・中程度の気候変動緩和策(RCP4・5)と野心的目標(地球温暖化を1・5〜2度に制限)は、21世紀におけるアムンゼン海の温暖化傾向という点で統計的に区別がつかない。緩和策で提供できる唯一の制御は最悪のシナリオ(RCP8・5)を防ぐこと。
・(現時点の)シナリオの選択は22世紀以降により重要になる可能性がある。
参考 そのほか
・西南極氷床からの氷の減少はアムンゼン海の棚氷の海洋融解によって引き起こされている。
・西南極氷床の融解による海面上昇は現在年間0・3ミリ(2012年)
(西南極氷床・スウェイツ氷河について)
・西南極氷床の一部であるスウェイツ氷河は西南極の氷床が南極海に流出しないよう、氷を保持する役割を果たしている。
・西南極氷床の一部であるスウェイツ氷河が崩壊する可能性があり、実際に崩壊すると全球海面水位が65センチ上昇。崩壊により近隣の氷河が不安定になり、海面水位がさらに3m上昇する可能性がある。
・いつ崩壊するかの予測はほぼ不可能。
・2014年にワシントン大学のチームが崩壊は200〜1000年後と予測した
感想・まとめ
論文は海水面が5・3m上昇することは避けられない、という内容ではないことに注意が必要。
スウィッツ氷河が崩壊すると西南極氷床を保持する機能が失われ、3m程度の上昇の可能性があるというのが当面(200〜1000年以内)のリスクか。
アムンゼン海の温暖化を遅らせる効果は、野心的な気候変動緩和策でも中程度の緩和策でも統計的に区別がつかない程度で、最悪のシナリオを防ぐ道が残されるという内容。
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東京湾岸を含め、海岸保全施設のさらなる強靱化は必須のものとなりそう。
22世紀以降も巨額の費用をかけての防潮堤の嵩上げは続きそうだ。