東京8号線の豊洲から住吉への延伸計画が膠着状態に陥っているが、東京メトロ(東京地下鉄)の株式売却の観点から背景を説明した報道があった。法律に定められた復興財源にしたい国と影響力を維持したい東京都。この状況ではメトロによる新線建設は不可能。運用主体としてメトロが関われる枠組みをつくることも相当困難だろう(2019/08/31)。
(江東区)
一応、メトロ株売却による震災復興財源に関する法律の期限は2022年で、一つの節目か。
記事概要(日本経済新聞2019年8月31日)
・東京都は東京8号線延伸の事業スキームを2018年度中に決めると明言したが、2019年8月末の時点で決まっていない
・東京都は豊洲市場移転を控え、江東区に「豊洲〜住吉」の延伸に前向きな姿勢を示し、円滑な市場開場に協力を得た
・東京都と江東区の「約束」を東京メトロは事前に把握せず。メトロの幹部は東京都の姿勢に不信感
メトロ株式売却へのスタンス
・東京メトロは2004年に株式会社化。上場は長年の悲願。
・メトロの上場に当たっては法律により株式の売却などが必要
第二条 国及び附則第十一条の規定により株式の譲渡を受けた地方公共団体は、特殊法人等改革基本法(平成十三年法律第五十八号)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、この法律の施行の状況を勘案し、できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする。
(東京地下鉄株式会社法・付則)
・メトロの株主構成
国 約53%
都 約47%
国:売りたい
・国はメトロ株の売却益を東日本大震災の復興財源に当てることを法律で定めている。
第一条 この法律は、東日本大震災からの復興を図ることを目的として東日本大震災復興基本法第二条に定める基本理念に基づき平成二十三年度から平成三十二年度までの間において実施する施策に必要な財源を確保するための特別措置として、財政投融資特別会計からの国債整理基金特別会計への繰入れ並びに日本たばこ産業株式会社、東京地下鉄株式会社及び日本郵政株式会社の株式の所属替等の措置を講ずるとともに、復興特別所得税及び復興特別法人税(以下「復興特別税」という。)を創設するほか、当該財源についての公債の発行に関する措置等を定めるものとする。・・・第七十二条3 次に掲げる株式の処分により平成三十四年度までに生じた収入は、償還費用の財源に充てるものとする。
(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法)
東京都:売らない
・東京都はメトロへの影響力を保ちたいことから、売却しないという姿勢を堅持。新線など東京都が求める事業を進めてもらいたいという考えが強い
新線建設への立場
東京メトロ:新線建設はしない。協力は「経営に影響しない範囲で」=維持
新線建設で協力を求められた場合には「経営に影響を及ぼさない範囲で行う」
2008年の副都心線を最後に地下鉄ネットワーク整備に目処が立った
→「自分から新線整備をやりますとは言えない」(メトロ幹部)
(いずれも2018年度有価証券報告書)
新線建設は巨額の建設費により財務内容が悪化するため、上場への足かせとなる。
「東京都は8号線をやってくれという一方で株式は売らないでは話はまとまらない」(メトロ関係者)
東京都:状況は変わってきている
「地下鉄網の整備に目処が立ったという状況は(リニアや品川地下鉄などもあり)変化してきている」(東京都幹部)
感想・まとめ
メトロ株式の売却に向けた国と東京都の協議が2015年の時点で4年半たなざらしになっていた。2022年度までに生じた売却収入を東日本大震災の復興債の財源に充てることになっている。根拠法の効力が失われるまでにあまり時間がないことになる。期間延長になるのかも。
東京8号線延伸の今のところの印象は、東京都は「できるかどうかもわからない状態で江東区にカラ手形を切った」という感じかな。
全株式を売ればメトロは首を縦に振るかもしれない。でも東京8号線延伸のために株を売ってしまうと、他の新線関連への影響力行使に問題が生じそうなことも記事中に示唆されている。だから6路線に優先順位はつけられないのかも。
事業化には最低限、運営主体として関わってくれればいいわけで、上場に近づくような何らかの担保がいるんじゃないのかな。その辺がどうなってくるのか。もし国との協議が必要な内容だと、さらに先が遠くなる。
次のポイントは「東京都とメトロの協議体設置」か。
参考
・報道「有楽町延伸、メトロ「自分でやる」と言えないワケ」(日本経済新聞、2019年8月31日)