新型コロナウイルスの感染拡大による影響を踏まえた日本版のカジノを含むIR(統合型リゾート)事業に関するレポートが民間シンクタンクから発表された。興味深い内容なので簡単にみておく(2020/04/30)。
(東京都「ベイエリアビジョン」)=青海エリアのIRイメージ
- 概要
- 現状
- 国内各候補地の計画と新型コロナの事業日程への影響
- 資金調達の課題
- IRの一般的ビジネスモデル
- 新型コロナの海外IR事業者への影響
- 日本版IRの事業計画の見直し
- 参考:東京都の動き
- 感想・まとめ
- 参考
概要
レポートは新型コロナウイルスの感染拡大を受けた日本版IRの現状整理と、今後の影響を考察したもの。
現状
・カジノを含む日本版IRの開業時期 2020年代後半
・大阪、和歌山ではIRを運営する民間事業者の募集・選定を実施
2020年秋〜冬ごろに各地域での事業者候補選定
国内各候補地の計画と新型コロナの事業日程への影響
・大阪府・大阪市(都市型IR)
候補地 夢洲地区/敷地面積49ヘクタール
応募者1社だが来日できず。事業者決定は2020年9月へ3ヶ月延期
大阪万博前の部分開業断念、実質開業は2026年か
・横浜市(都市型IR)
候補地 みなとみらい地区/敷地面積47ヘクタール
素案は2020年4〜5月に取りまとめ
実施方針公表は2020年8月以降へ延期(当初6月公表予定)、その後、事業者募集・選定
・和歌山県(地方型IR)
候補地 和歌山マリーナシティ/敷地面積20・5ヘクタール
2025年開業目指し、事業者募集・選定実施。2020年11月にIR事業者決定
・長崎県・佐世保市(地方型IR)
候補地 ハウステンボス地区
実施方針案は2020年4月公表/敷地面積31ヘクタール
2025年ごろの開業目指し、事業者募集・選定を2020年春〜夏に実施、秋〜冬事業者決定を想定
い
資金調達の課題
新型コロナの影響でスケジュール逼迫。投資規模(都市型1兆円、地方型3000〜4000億円)の大きさがIR事業者の事業立ち上げ(初期投資)の資金調達を困難にしている。
IRの一般的ビジネスモデル
カジノ事業から得た収益を公共性の高いMICE施設、ホテル、物販飲食などの非カジノ部門の運営に充てるもの。営業利益はローン返済と配当に充当される。
→カジノ部門の営業収益の確保は非カジノ部門を含むIR事業全体が成立するための必要条件
都市型IRの初期投資における資金調達・収益形態イメージ
初期投資・資金調達イメージ(建設期間3〜5年)
投資規模 約1兆円
ローン 〜50%/代表企業出資 30%〜/構成企業出資 10〜20%
IRの収益形態イメージ(運営期間30〜40年)
カジノ部門 全体収益の7〜8割
非カジノ部門 全体収益の2〜3割
日本版IRの特徴
大規模な初期投資・年間営業収益
世界最高水準のカジノ規制導入(国内利用者の入場料6000円、月10回の利用制限など)
→カジノ部門のキャパシティ制限/高負担率による利益減少/入場料による集客減少。
事業運営、収益化の難易度が高い原因の一つ。
このため、海外のIR事業者は世界各地の既存IR施設の収益を原資に日本参入を周到に計画・準備していた
新型コロナの海外IR事業者への影響
感染拡大で既存施設への対応を優先せざるを得ない状況。
ラスベガスは4月末まで州内のカジノ施設は全て閉鎖。
世界最大のカジノ市場マカオは2月中旬に全施設閉鎖。3月下旬に営業再開
日本国内の事業スケジュールの逼迫以上に、海外IR事業者にとっては日本参入原資となる世界各地の既存IR施設の収益への影響が甚大に。
既存施設の収益低下で日本市場参入の事業モデル、投資・資金調達スキーム見直しが想定される。
日本版IRの事業計画の見直し
日本市場参入にはIR事業者の周到な準備が不可欠
公共側(国、都道府県など)は逼迫するスケジュールの緩和へ、選定スケジュールの再設定・事業スキーム、制度の再検討が必要だろう
民間側(IR事業者、金融機関、出資者など)は、事業収支計画の再検討、再構築が必要だろう。投資規模縮小によるIR施設の営業収益への影響、事業開始遅延による収益機会減少の可能性など、「ダウンサイドリスク」を考慮した事業計画の再検証が求められる
参考:東京都の動き
東京都はIRの区域認定への立候補への結論を出していない。
国はIRの区域認定に向けた募集時期を現時点では2021年1〜7月(予定通り)に進める意向で、東京都が参入を表明した場合、東京オリンピックの準備期間と重なるため、マンパワーでもスケジュール面でもかなり逼迫する。
感想・まとめ
日本版IRの全体を俯瞰する上でとてもわかりやすいレポートだった。コロナ以前のようにはいかないだろうとは思っていたが、背景が少し見えた気がする。
日本版IRの特徴
・大規模な初期投資・年間営業収益と世界最高水準のカジノ規制導入という特徴があり、事業運営と収益化の難易度が高い。
新型コロナの影響
・海外IR事業者にとっては世界各地の既存IR施設(日本版IRの参入原資)の収益低下で、既存施設の対応最優先の状態。
・日本版IR参入の事業モデル再構築、再検証が必要になる。
ということらしい。
以前のエントリで示したスケジュールはこんな感じだった。
2020年
前半 IR事業者の公募.選定(管轄自治体)
区域整備計画の申請・認定(管轄自治体)
後半 区域整備計画の認定・公示(国)
実施計画の締結(管轄自治体)
カジノ免許申請(IR事業者)
2021年
カジノ免許付与(国)
2024〜25年
IR開業
https://dorattara.hatenablog.com/entry/20191129/1574953200
日本版IRはスケジュール、事業内容のいずれも大幅な見直しは避けられないだろうね。
参考
www.smtri.jp