住民が交通利便性が低いと感じているエリアを中心に新たな交通システムの導入を検討している江東区が2025年3月に中間報告書を公表した。持続可能な地域公共交通の構築に向けた強い意志と、民間交通事業者に地域公共交通の拡充を委ねることは困難という認識をベースに、導入検討エリアとして、南砂、辰巳・潮見、砂町の3つのエリアを挙げた。江東区の強い危機感を感じる内容(2025/03/24)。
- 背景=慢性的なバス乗務員不足
- 地域公共交通の課題
- 導入対象地域 江東区を13エリアに分類
- 評価の結果 南砂、辰巳・潮見、砂町の順
- 3地域でそれぞれ最高評価だった案
- 参考 豊洲に絡んだ交通システムの評価結果
- 感想・まとめ
- 参考リンク等
背景=慢性的なバス乗務員不足
・2024年3月31日 葛飾区「レインボーかつしか」、足立区「はるかぜ10号」廃止=慢性的な乗務員不足等が理由
・時間外労働の上限規制、休憩時間改正(2024年問題)により乗務員不足は深刻化
・日本バス協会の試算では2030年にはバス運転手が約3万5千人、28%不足。
→持続可能となる地域公共交通の構築が必要
地域公共交通の課題
1 鉄道を既存路線バスのサービスが低い地域への対応
民間交通事業者に地域公共交通の拡充を委ねることは厳しい状況
2 移動が困難な高齢者への対応
江東区民の70歳代の4・1%、80歳以上は21・9%が最寄バス停などへ歩行できない(アンケート)
高齢者では外出の際の交通手段に関する不便感が他世代より高い
3 移動に不便を感じている子育て世代への対応
通勤、通学、買い物の目的での移動の不便さは未就学児のいる世帯はいない世帯より高い
4 既存の公共交通では移動しにくい移動ニーズへの対応
公共施設、商業施設への日常的移動に関し、新たな交通システムの利用意向を踏まえ、ニーズに合った新たな交通手段の導入を検討する必要がある
導入対象地域 江東区を13エリアに分類
評価項目 各項目を0〜5で評価し合計ポイントをみる
1 公共交通サービス圏域外の人口
2 バスの単位面積あたり運行本数(片側運行本数の合計) 本/ヘクタール
3 65歳以上人口
4 区民アンケートで60代以上で「不便」と回答した人の割合
5 区民アンケートで60代以上でバス停まで歩行できない人の割合
6 5歳以下人口
7 区民アンケートで未就学児同居世帯で不便と回答した人の割合
8 主要施設の施設数密度(箇所/平方キロメートル)
9 商業施設の単位面積あたり延べ床面積(平方メートル/ヘクタール)
10 位置情報データによる発生密度(1日あたり、トリップ/ヘクタール)
移動量が多いところは公共交通に転換可能な移動も多く含む可能性があることから、移動量の発生密度を評価する。
11 区民アンケートで新交通システムを利用すると回答した人の割合
評価の結果 南砂、辰巳・潮見、砂町の順
各項目を0〜5の5段階評価した表
1位 南砂 40ポイント
・65歳以上人口が13地域中3位(12%)
・バス運行本数が少なく、60代以上でバス停まで歩行できないとした回答が13地域で最多
2位 辰巳・潮見 38ポイント
・人口は13区域中2番目に少ない(3%)
・バス運行本数が少なく、高齢者や子育て世帯から交通が不便と回答
・新たな交通システムを利用した意向が高い
3位 砂町 36ポイント
・65歳以上の人口が13区域中最多(17%)
・バスの単位面積あたりの運行本数は多いが、公共交通サービス圏域外の人口は13区域中最多(19%)
3地域でそれぞれ最高評価だった案
南砂E案=デマンド交通(区域運行) ワゴン・タクシーによる
・主な目的地 概ね2キロ圏内の施設
・区民アンケート(移動に不便を感じる理由) バス停が遠い、交通手段の選択肢が少ない
・交通需要 地域内の日常の移動に利用
・道路幅員 狭隘道路を走行可能
・メリット ドアツードアに近い交通サービス提供が可能
・既存交通との競合 (○低い)
・導入における課題 予約システムやコールセンターの費用/利用者に予約の手間
辰巳・潮見A案=定時定路線(しおかぜ増便等) バスによる
・主な目的地 豊洲駅
・区民アンケート(移動に不便を感じる理由) バス便数が少ない
・交通需要 豊洲への運行希望、約5割が週1回以上利用
・道路幅員 道路幅員が狭い場所はない
・メリット 新たな整備の必要がない
・既存交通との競合 (○なし)
・導入における課題 運転手の確保(交通局)/新規車両購入
砂町E案=デマンド交通(区域運行) ワゴン・タクシーによる
・主な目的地 概ね2キロ圏内の施設
・区民アンケート(移動に不便を感じる理由) バス停が遠い、交通手段の選択肢が少ない
・交通需要 地域内の日常の移動に利用
・道路幅員 狭隘道路を走行可能
・メリット ドアツードアに近い交通サービス提供が可能
・既存交通との競合 (○低い)
・導入における課題 予約システムやコールセンターの費用/利用者に予約の手間
参考 豊洲に絡んだ交通システムの評価結果
南砂A案=定時定路線 南砂エリア〜豊洲・ららぽーと豊洲 バスによる
・区民アンケート(移動に不便を感じる理由) 乗り換えが多い、最短経路で行けない
・交通需要 豊洲への運行希望、約9割が月数回以下の利用
・道路幅員 通行できる路線が限られる
・メリット 豊洲地域まで乗り換えなしで行ける
・既存交通との競合 (×複数の都バス路線と競合)
・導入における課題 路線延長が長く、渋滞等の道路環境の影響を受けやすい/運転手の確保
砂町A案=定時定路線 南砂エリア〜豊洲・ららぽーと豊洲 バスによる
・区民アンケート(移動に不便を感じる理由) 乗り換えが多い、最短経路で行けない
・交通需要 豊洲への運行希望、約8割が月数回以下の利用
・道路幅員 通行できる路線が限られる
・メリット 豊洲地域まで乗り換えなしで行ける
・既存交通との競合 (×複数の都バス路線と競合)
・導入における課題 路線延長が長く、渋滞等の道路環境の影響を受けやすい/運転手の確保(交通事業者)
辰巳・潮見A案=定時定路線 既出(省略)
感想・まとめ
江東区の中間報告書に盛り込まれた
「持続可能な公共交通の構築」
「民間交通事業者に地域公共交通の拡充を委ねるのは厳しい状況」
は、他の東京23区も例外ではない。中間報告書から江東区の公共交通維持に向けた強い危機感が感じられる。
翻って中央区からはそういった危機感は感じられない。乗務員不足という避けられない未来にどう向き合うつもりなのだろう。