企業などの東京一極集中に関する国の有識者懇願会が設置されているが、新型コロナ流行を踏まえた2回目の会合が2020年7月10日に開かれたので、資料をみてみる(2020/07/26)。
会議の趣旨
東京一極集中の是正に向けた取り組みは、企業動向の大きな変化に繋がっていないので、諸外国と比較して企業などの一極集中の要因について有識者で議論する。
※新型コロナの影響を踏まえた内容に変化しているのが興味深いところ。
日本の状況(他国との比較)
経済的実力
・2030年までの間に人口が減少するのは日本のみ。
・購買力平価ベースのGDPでみた経済的実力は東京都も含めて国際社会の中で低下。
20年前は東京都と韓国はほぼ同水準だったが、現在は韓国の半分以下。
・1人あたりGDPは2000年代初頭、ロンドン・パリより1万ドル以上高かったが、2016年には双方に抜かれた。
一極集中の状況(人口)
・ロンドン、ソウルなどと同水準で特異ではない。
・東京は転入超過、ロンドンは国内では転出超過、国外からの転入超過と自然増で人口増加。
・進学年齢層は東京で転入超過。イギリスは地方に大学が多く、ロンドンは転出超過。
→大学の立地が東京一極集中の特殊性といえる可能性があり、さらに調査する
一極集中の状況(経済)
・東京への集中はロンドン、ソウルなどと同水準。大手企業集中は東京、ソウルが顕著
一極集中した都市の社会問題
(国土交通省)
・住宅価格はロンドンが高い
・通勤は東京の方が距離が長いが、混雑率、通勤時間とも減少傾向
・都心部の渋滞はロンドンで顕著
→コロナ問題では東京は特にリスクが高かったか精査する。
・東京はロンドンなどより開発規制が比較的厳しくない。
・平野面積が大きい
→通勤時間は長めだが、住宅価格はロンドンほどではない
新型コロナの感染拡大と人口密度(7月10日)
(国土交通省)
・人口が多い年を抱える都道府県の多くで感染拡大。人口密度が高い東京都では特に感染者が多い。
→感染拡大防止と日本経済社会維持の観点から東京一極集中の弊害が指摘されている
ビジネス環境の変化(テレワークの普及)
(国土交通省)=大久保敏弘・NIRA(2020)「第2回テレワークに関する就業者実態調査(速報)」
・テレワーク利用率は2020年1月から急上昇。4〜5月には全国で25%、東京で40%近くに。6月にはやや低下したが東京圏では高い利用水準続く(約30%)。
・テレワーク利用者の6割以上が、新型コロナ終息後の週半分以上のテレワーク勤務を希望
ビジネス環境の変化(WEB会議の普及)
・2020年2月以降、WEB会議の利用が増加。
・利用意向は高い傾向。ビジネス様式として定着すれば、企業立地や社員配置に変化が生じつ可能性がある。
都心5区のオフィス需要への影響
(国土交通省)
・経済停滞に伴い、都心5区の空室率は2023年までに5%に上昇(民間予測)
・全従業者の1割がテレワークを継続した場合、オフィススペースの需要がさらに低下。空室率が15%まで上昇する予想もある。
・20年5月調査では、約5%が事務所の縮小、移転を検討。すでに縮小、解約企業も存在。
→企業行動の変化が、企業の都心5区への集中状況に与える影響について考慮必要
今後のスケジュール
2020年10月末〜11月 最終取りまとめ
参考:国土審議会長期展望専門委での意見(抜粋)
オフィス需要について
・ほどんどの上場企業は、都心のオフィスは半分で良いと思い始めている。ワークステーション、シェアオフィスを用意し、デスクを使用する社員を選別する流れ。
分散型国土構造形成の必要性
・新型コロナでドイツが相対的に死者数が少ない要因に国土構造関連か。
・ベルリン、ハンブルグなどの一定の規模の都市はあるが、NY、ロンドン、パリのような大規模集中型の都市は無い。分散化、多極化の構造が感染症対応の観点でも「レリジエント」。
感想・まとめ
注目した点をまとめるとこんな感じか。
・諸外国との比較で大学の立地が東京一極集中に関係する可能性
・コロナ関連:一極集中に関して感染拡大防止と日本の社会経済維持の観点が浮上
・テレワークがわずかでも継続した場合のオフィス空室率は跳ね上がる予想→企業行動の変容に注意
一極集中が新型感染症に脆弱なことはかなり明確になってきていると思う。資料末尾には「東京一極集中を是正するにあたっては、東京の国際競争力を阻害しないように配慮することが必要」と記載があって、その通りとしか言いようがない。
この懇談会は政策を提言するようなものではないが、現状把握という意味で注目したい。各委員が言いっぱなし感が強いのが少し不安なところ。