東京都市圏の人の移動について10年に一度調べる「パーソントリップ調査」の結果が発表され、人の総移動回数(総トリップ数)が、第1回調査の1968年以来、初めて減少に転じた。パーソントリップ調査は、中央区、江東区の交通に関する資料や交通政策審議会委員会の資料にみられるように、幅広く用いられていて影響は大きい。もしかしたら歴史的な転換点を通過したのかもしれない(2019/11/29)。
参考:2005年から2015年の人口変化量
(東京都市圏交通計画協議会)
これを前提にみるととても興味深い結果。
パーソントリップ調査とは
人の1日のすべての移動(トリップ)を把握する調査。東京都市圏では10年に1回実施している。2018年の調査は第6回調査。前回は2008年。
調査範囲 東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県南部)
(東京都市圏交通計画協議会)
調査時期 2018年9月〜11月
対象地域 268市区町村
対象者 東京都市圏居住者のうち、無作為で選ばれた63万世帯(満5歳以上)
回答者 約16万世帯、約31万人
用語
トリップ ある地点からある地点へ移動する単位
トリップ数 1回の移動でいくつかの交通手段を乗り換えても1トリップ
代表交通手段
1つのトリップでいくつかの交通手段を乗り換えた場合、その中の主な交通手段のこと。優先順位は鉄道、バス、自動車、二輪車、徒歩。
外出率 調査日に外出した人の割合
調査結果
①総トリップ数
・総移動回数が調査開始以来初めて減少に転じた。前回2008年から約13%減少
(東京都市圏交通計画協議会)
②外出率
・外出率と1人1日あたりのトリップ数は調査開始以来最低
(東京都市圏交通計画協議会)
・外出率はすべての年齢階層で減少。40歳以上の外出率はこれまで増加傾向だったが、今回減少に転じた。
(東京都市圏交通計画協議会)
・10年前の前回調査と比べ、外出率は自営業で17%、主婦層で18%減少
(東京都市圏交通計画協議会)
③外出した人のトリップ数
・1人1日当たりのトリップ数は45歳未満で減少傾向。これまで増加傾向の45歳以上でも減少に転じた
(東京都市圏交通計画協議会)
・1人1日当たりのトリップ数は業務目的と私事目的の男女別、各年齢階層のすべてで減少、通勤目的は女性の15歳〜64歳を中心に増加
④交通手段と移動目的
・すべての交通手段でトリップ数は減少
(東京都市圏交通計画協議会)
・目的別では業務目的、私事目的で減少
(東京都市圏交通計画協議会)
・トリップ数は鉄道の通勤目的、帰宅目的で増加
(東京都市圏交通計画協議会)
・分担率は東京区部とその周辺では鉄道が増加、郊外部は自動車の割合が高く、かつ増加
(東京都市圏交通計画協議会)
⑤時間帯と移動時間
・時間帯別トリップ数は、朝ピーク時は横ばい、昼間以降は減少
(東京都市圏交通計画協議会)
・移動時間30分未満のトリップ数は減少、30分以上のトリップ数は横ばい。
(東京都市圏交通計画協議会)
感想・まとめ
調査結果は「人が動かなくなってきている」ということを示している。
・総移動回数が調査開始以来初めて減少に転じた。前回2008年から約13%減少
・外出率と1人1日あたりのトリップ数は調査開始以来最低
・外出率はすべての年齢階層で減少。40歳以上の外出率はこれまで増加傾向だったが、今回減少に転じた
・1人1日当たりのトリップ数は45歳未満で減少傾向。これまで増加傾向の45歳以上でも減少に転じた
・すべての交通手段でトリップ数は減少
交通政策審議会答申では鉄道輸送需要は当面(=2030年)は増え続ける、という内容になっていたと思う(答申9ページ)。
「総移動回数が10年で13%減少」「すべての交通手段でトリップ数減少」という結果は、鉄道新線推進に向けては衝撃的なのではないか。人が動かなければ、新線建設の必要性を主張しにくい。
もっとも、5年前の国の調査でその兆候はあった。
そういえば、都心部・臨海地域地下鉄構想沿線と、東京8号線整備効果が見込まれる京葉線、東西線沿線の人口推移のエントリでは2030年がピークだった。
人口減少に加えて、人の移動の減少傾向に拍車がかかるようだと、混雑率緩和を整備の大きな理由とした東京8号線の事業化の新たな懸念になりうる。劣後する都心部・臨海地域地下鉄構想への影響も心配だ。次回調査がヤマ場かもしれない。